操られ文楽鑑賞 三浦しをん著
文楽ど素人時代の作者の文楽記録である。
私は首都圏在住時に文楽を観て作者同様ハマってしまった。東京・大阪では年間6回の文楽公演があったが、地方で暮らすようになると運よく年に1回の文楽地方公演を観られればよく、その恩恵さえ受けない地域では鑑賞の機会さえなく、今では遠征しないと観られない環境になってしまった。
文楽は「時代物」「世話物」の二つのカテゴリーに分けられ、「時代物」は江戸だけではなく、鎌倉から上代まで遡り公家や武士が中心となってドラマが展開される。「世話物」は江戸時代の町人世界をリアルに扱っている。
現代と価値観が著しく違いすぎてツッコミを入れたいところが山のようにある私だが、作者の感想が入る解説、特に町人が遊女と心中する話の解説には強く同意しながら読み進めていける。
鶴澤燕三、桐竹勘十郎、豊竹咲大夫へのインタビューもあり文楽の三業(三味線・人形遣い・太夫)についても理解を深めることができる。
作者は「仏果を得ず」という文楽に情熱を傾ける若手大夫の奮闘を描いた青春小説も書いているが、併せて読めば一層、文楽の世界にのめり込めるのは間違いなしだ。
淡交社から刊行されている「文楽にアクセス」もお勧めする。写真付の豊富な解説がありビジュアルで文楽へ誘ってくれる。