神さまたちの遊ぶ庭 宮下奈都著
トムラウシ、アイヌの言葉で、花の多い場所を意味する。
トムラウシ山は地元では「カムイミンタラ」(神々の遊ぶ庭)として崇められ、日本百名山にも選ばれている美しい山だ。
2009年の夏、この山で山岳遭難事故が起こった。近年まれにみる数の死者を出したため多くの人の記憶に留まることとなり、私のトムラウシの記憶も遭難事故を連想させるようになった。
その地に家族5人で山村留学をする話である。著者は同じ時期に福井新聞が月に一度発行する情報誌「fu」にもエッセイを書いている。「緑の庭の子どもたち」の題名で刊行されているので同時に読む事をお勧めする。
夫の強い希望で行くこととなったトムラウシであるが、旅するのと住むのでは全く気構えが違う。良い時も悪い時もあり簡単に終われない住む事を選んだ勇気に頭が下がる。夫婦だけではなく成長期の子どもと共に一年間。たいした選択であり、それが長い人生の大きな思い出として生涯残るのだろう。
日々のエッセイの中にまるでオチのように付けられる温かい一文が胸をくすぐる。
続編を期待したいところだが、「それから」二年後の春にも書かれているように、作者にも生きている彼らの「それから」はわからない、であるのだから読者が各々想像の翼を広げるしかない。すでに大人になってしまっているだろう彼らに幸多からんことを切に願う。