農ガール、農ライフ 垣谷美雨著
定年まで残り2年くらいの頃、本屋でこのタイトルに惹かれた。定年後の生き方も定まっておらず、さぁどうしようといった私にはちょうどよいタイミングであった。
農業も悪くないなぁなんて思いながら読み始めた。遅まきながらであったが自身の人生を改めて見つめ直す時間でもあったような。
主人公の久美子は32歳で仕事も家も彼氏も同時に失い、まさしく崖っぷち。コツコツ真面目に挑んでも世間は思い通りには渡れない。農業参入への道がこれほど厳しいものであるとは私も想像していなかった。農業は高齢化で若い人を求めていて、などと聞いたりするが現実はさほど容易ではないのであろう。家庭菜園をする程度であれば貸し農地は見つかったかもしれないけれど、生活のために広い土地を取得することは案外こんなものかもしれない。
昨年夏、父が借りている畑の収穫を何日か手伝ったのだが、毎日が格闘だった。夏の野菜の生命力は著しい。毎日同じ野菜の収穫が続きその後始末に追われる。成長は待ったなしでこちらの都合など関係ない。楽しみのはずであったが思わぬ落とし穴にはまった気がした。スーパーに行けば綺麗なすぐ使える野菜が簡単に手に入る現実になびいてしまいたくもなった。
父の作った無農薬野菜には虫も付き、葉っぱは穴だらけ。それに比べて、スーパーの野菜の美しさは何?薬漬けの野菜だったことに気がついた。無農薬で人件費の高い野菜は安値で売れない当たり前の事実にたどり着いてしまった。
久美子の学生時代のサークルの先輩瑞希は、かつて大手新聞社に入社したもののわずか1年半余りで退社。その後、今では「大草原の瑞希ハウス」のブロガーとして情報を発信し多くの読者を得て生活している。発信内容の多くは瑞希の虚構でもあったのだが人気ブロガーの実態を教えてくれた。ブロガーとしての収入を得るためパソコンに張り付き新ネタを次々発信し続けるという大変な実態であった。しかし瑞希のブログで久美子の無農薬野菜を推してくれた事によってコツコツと真面目に作った野菜も日の目を浴び生活にゆとりも出始めた。
生活費を稼いでいくことがいかに大変なのか知らされた。そしてヒトミや静代のように生活を確保するために結婚を選ぶこともありなのだ。生きていく、生活していくってことは理想だけではないのだなぁ。