言葉の園のお菓子番 孤独な月 ほしおさなえ著
お菓子案内とも言えるかもしれない。主に東京老舗のお菓子が紹介されている。また東京都内の地名を知っていれば主人公一葉(かずは)と共に町を散策しているようにも感じられる。
ここでは連句会を通しての人間関係が紡がれている。そしてその中に登場する六個のお菓子。上野うさぎ屋のどらやき、西巣鴨土佐屋のいもようかん、銀座清月堂のおとし文、高岡市不破福寿堂の鹿の子餅、銀座空也の空也もなか、麻布十番豆源の豆菓子。どのお菓子も有名な老舗のお菓子である。私は残念ながらこの内の半分しか食べていないがそれぞれの味を思い出していた。
私は「連句」を知らなかった。近年流行の俳句を作る集まりを想像していた。俳句を作るのではあるが銘々が作り発表するのではない。複数の人が集まり五七五の句と七七の句を交互に付けていく遊びで、誰かが出した句にそこから連想した句を付けていく。付ける順が決まっているのではなく、みんながそれぞれ考えた句を出し、その中から捌(さば)きと呼ばれる先生が選ぶというものである。
その連句会の席にお菓子を選んで持っていくのが一葉の亡くなった祖母の担当であった。一葉はその縁で連句会に通い始め連句のように人と人、想いと想い、仕事と仕事が繋がっていく。
「別れと出会い、悲しみと喜びが静かに心を満たす」とウラスジに書かれているが、私の心も同じ様に満たされていった。