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BOOK CAFE LAGOM

680-0824
鳥取市行徳3-757

本の紹介

東京藝大仏さま研究室 樹原アンミツ著

この本を手にした動機は「最後の秘境 東京藝大」(二宮淳人著)があまりにも面白かったからである。藝大が舞台であれば期待通りだろう、なんて気持ちで読み始めた。期待に違わず面白くて、仏像好きな知人にこの本を紹介した。後日感想が届けられそれを読んで驚愕した。

私は面白いと薦めながら内容を理解していなかったのに気づいたのである。小説内の一条教授は、せんとくんで有名な籔内佐斗司の事ですね、と書かれていた。私はまるでこの小説を理解していなかったのかもしれない。慌てて市立図書館で本を探した。ない。県立図書館の貸し出しを申し込み数週間後に手元にやってきた。

「第1章 まひるは仏を探す」小浜市の寺が舞台となっている。一度目に読んだ当時私は福井に住んでいた。若狭は「海のある奈良」と呼ばれるほど古い仏像が遺されている地域である。年に一度、若狭地域の仏像を見るためのバスツアーが出ていた時もあり、私はそれで仏様巡りをしようと考えていた。しかしそれはコロナで潰えた。小説では「慶徳寺」の十一面観音坐像と格闘するまひるを応援しながら読んだ。

「第3章アイリと不動明王」では「文治二年、壇越平朝臣時政、巧師勾当運慶」の文字に目が止まった。大河ドラマ鎌倉殿の十三人で運慶の初出場面を思い出した。伊豆の寺とは時政と運慶が一献まじわしたあの寺か、などと想像しながら読み進んだ。

4章からなるこの小説を読めば仏像に関する疑問のいくつかが解決する。仏像の解説書を読んでもちっとも頭に残らないのに。解説にも書かれているが、技術的なことや歴史など、そのまま書けば専門的で小難しくなってしまうことも、身近で親しみやすい登場人物のおかげですんなり入ってくるのである。

信仰心のない私だが仏さまを見ていると心が和む。仏さま見学の旅に出かけられるのはいつになるのだろう。せめて知識くらいは積んでおきたい。