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BOOK CAFE LAGOM

680-0824
鳥取市行徳3-757

本の紹介

初夏の訪問者 吉永南央著

なんの予備知識もないまま図書館の書架を物色した。常であれば図書館が用意したお勧め本、あるいは返却されたばかりの図書のワゴンから面白そうな本を借りていく。今回はそのどちらにも食指が動かず書架の前に立つこととなった。案外知らない作家は多く、古過ぎず時代物でもなく等々の条件をつけながら探していった。

吉永南央は初めて知った作家であった。「紅雲町珈琲屋こよみ」はシリーズ化されていて幾冊か並んでいた。シリーズ化されているためか、初めての読者には登場人物が素直に飲み込めない。過去のシリーズで登場しているため性格描写が簡易なためだろう。読み進むうちにおぼろげな人物像がわかってきた。

私のようにシリーズ化に手を出して物語に入り込めないことがないように簡単にこのシリーズの紹介をしておこう。

「紅雲町珈琲屋こよみ・お草シリーズ」は和食器とコーヒーのお店「小蔵屋」の店主 ・杉浦草(76歳)が主人公である。草は街で起こる謎も解決していくというスーパーシニア婦人。

私はタイトルに惹かれてこの本を読んだが過去のシリーズを読んでいないため物語の中に入って行きにくい欠点もあった。このシリーズを読むにあたっての順番を紹介する。

① 「紅雲町ものがたり」(文庫版で改題「萩を揺らす雨)②「その日まで」③「名もなき花の」④「糸切り」⑤「まひるまの星」⑥「花ひいらぎの街角」⑦「黄色い実」⑧「初夏の訪問者」⑨「月夜の羊」

今回紹介している「初夏の訪問者」は、草の若くに亡くなったはずの息子が突然現れ彼女と関わることを軸に物語が進んでいく。

「良一」と名乗る50代の好感度の高い髭の男と対峙する場面が何度も描かれる。自身と「良一」との接点が数多く出現する。果たして死んだはずの息子なのか。草のその時々の心情にハッとさせられる。これほどの共通点を突きつけられれば「良一」でしかないのでは。謎解きシリーズなのでこれ以上の感想は書かないが他のシリーズ化されている本も読んでみたくなった。食器、食べ物の細かな描写に心惹かれる。