東京藝大物語 茂木健一郎著
私が読んだ抱腹絶倒の「最後の秘境 東京藝大」に似たような小説であろうと手にしたが、読後感は肩透かしを食らったような残念さだ。
あの有名な茂木健一郎氏の実話7割と言われる初めての小説である。綺羅星のごとく著名な人物の名が続く。こんな超一流な人達がゲストとして訪れる東京藝術大学の素晴らしさに手を叩けば良いのだろうか。茂木氏と思われる主人公と行動を共にする学生たちの非常識さに目眩がしそうだ。学生なら芸術家なら許される行動なのかと自身のノーマルさに辟易することにもなった。
唯一ありがたい描写は直島に関したものだ。「家プロジェクト」というのがあり、直島にある民家のうち、人の住まなくなった家を改変し恒久的に作品を展示している。その中の「きんざ」に設置されている内藤礼の「このことを」というインスタレーション*の作品についての解説がある。それ以外に地中美術館の作品内容等が書かれていたのはありがたかった。
「松井冬子」の卒業制作展の作品解説も興味深い。その他にも日本の美術に興味があればかなり楽しめるかもしれない。騙されたと思って眺めてみてはいかが。
*インスタレーション:絵画・彫刻・映像・写真などと並ぶ現代美術における表現手法・ジャンルの一つ。ある特定の室内や屋外などにオブジェや装置を置いて、作家の意向に沿って空間を構成し変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させる芸術。