本を守ろうとする猫の話 夏川草介著
タイトルを見れば「猫の話」だ。ということは猫が主人公となるのだろうか。私は高校生の夏木林太郎が主人公だと思って読み終えたのだが。
なぜ「トラネコ」だったのか、突然の叔母の出現と別れの淡白な描き方等々、読後に疑問は残る。大人の童話のようなものと考えれば良いのだろうか。現在の本の読まれ方に対しての鋭い疑問は胸ぐらを掴まれたようであった。
第一章「閉じ込める者」五万冊の本を読む男として世間を牽引していた気鋭の批評家。第二章「切りきざむ者」時代に応じた迅速な読書法を次々と編み出していた天才学者、第三章「売り捌くもの」売れる本、わかりやすい、刺激的な本だけを出版していた社長。これら三人の男たちは林太郎と対峙したことによって本への想いが大きく変わった。
いつの間にか日本の多くの町から本屋が消えた。大きな街で暮らしていた時はこの状況を認識していなかった。通販で購入するのはとても簡単になったが、実物を手にとって本を購入することがこれほど困難になるとは想像もしていないかった。
2017年に書かれた小説である。本の置かれた現状に気づいて欲しいという著者の叫びのように感じた。そして私もそれに共感している。