わが殿(上下) 畠中恵(ハタケナカ メグミ)著
福井新聞、宇部日報等十紙に掲載したものに加筆出版されたものである。
畠中が初めて実在の人物をモチーフに描いた作品で越前大野が舞台となっている。現在の福井県大野市には天空の城と呼ばれる大野城があり、日本の百名城にも選ばれている。
幕末期の大野藩は多額の借金を抱えていた。藩主・土井利忠はわずか八十石の内山七郎右衛門に藩の財政再建に当たらせ、様々な藩政改革を断行した。七郎右衛門は19歳で藩主から打ち出の小槌役を任され75歳で亡くなるまで土井家を支えた。明治元年、主君利忠は享年58で世を去り、激動の時代に大野藩士は七郎右衛門らの働きにより幕末以降の大きな波を乗り越えていった。
私は福井在住の折に幾度か大野で遊んだ。観光施設のどこかに内山兄弟の大野藩での活躍ぶりが掲示されていた。しゃばけシリーズを書いている畠山が大野を舞台にした新聞小説を掲載しているとの話を聞き、読みたいと思っていた小説であった。
期待に違わず引き込まれていった。主君の命から逃れることができない武士のなんと大変な事。そろばん勘定の強い侍は軽蔑され、その上、石高は低いのに主君のおぼえ愛でたく、働けど働けど大野藩士からは疎まれ生死危うくなることも幾度か。それにも関わらず藩政から退く事も隠居することも違わず。そんな状態なのに腐りもせず大野屋を17店まで増やしていった。十分生きて働いて、先年の大河の渋沢栄一を思い出させる大した人であった。