まくらの森の満開の下 春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)著
著者の落語は福井在住の折に何度か聴いた。蕎麦屋で噺を聴いたこともあった。この先そんな贅沢な出会いもないだろう。初めて聞いた著者のまくらは、耳をおおいに澄まさなければ聞き取れぬような小さな声でボソボソと始まった。よもやま話なのだがだんだん引き込まれてしまい、いつの間にか噺の中に入り込んでいくのであった。
このエッセイも同様で、著者のその時々の力の抜けた与太話なのについつい読んでしまう。噺家の実力垣間見る、といった内容だ。「はじめに」の冒頭から”やっちまった”大変だとつらつら文章を連ねているうちにわずか1時間半余りで消した原稿を新たに書き終えた。何が何だかわからない間に消失させた原稿はひと月余りもかけたと言うのに。
週刊朝日に2019年〜2021年に連載の3冊目の単行本だ。