歌に私は泣くだろう　永田 和宏（ながた かずひろ）著

　著者は歌人・細胞生物学者、理学博士である。私のイメージしていた理科系男性と大きく異なるのは歌人としての感情が理性さえも抑えるからだろうか。島尾敏雄と島尾ミホの関係を思い浮かべるような濃い夫婦関係である。

　妻で歌人の河野裕子への想いを書き綴っているのだが、同じく歌人である息子、娘のプライベートな事柄も多く綴られている。ここまで公にせずとも、などと私は思ってしまう。著名な歌人一家であるから注目度も高いであろう。　

　歌会始の選者の著者と河野の2010年のエピソードで二度、皇后からスープが届けられた事、見舞いの電話をもらった事が書かれている。皇室の方々は天上の人であるように思っていたので、この当たり前さに驚いてしまった。

　歌人であるのだから短歌が日常生活に入り込んでいるのであろうが、この文章の中に納められた短歌の数々。駄作もあるだろうが容易に生まれ出す言葉の多くに感動さえ覚えた。

　薬袋にもティッシュの箱にも書いておく凡作なれど書きつけておく（裕子）