こいしいたべもの 森下 典子(もりした のりこ)著
作者の年齢とほぼ変わらないこともあり、事柄の多くが懐かしい。食べ物の話は地域が違うにも関わらず共通するものだ。転勤であちこち住んだ私は作者の暮らしていた街の様子や地方都市の話にうなづきながら読み進んだ。
「夜明けのペヤング」を読んでいて私も熱湯をシンクに流す時、失敗したその瞬間を思い出すのだった。そして美味ではないのに、食べたい欲求に負けそうになる。しかし、恋しく懐かしいペヤングなのにきっと食後に胸焼けを起こすだろう。インスタント食品を受け付けない体質になってしまったようだ。
「ちびくろサンボのホットケーキ」では突然童話の「ちびくろサンボ」が絶版になったことを思い出した。絶版の理由は「黒人差別の会」からの抗議によるものであった。抗議時点では親子三人のみの会である。その会の主張が絶版に至らせることになったのだ。私には絶版に至る理由は理解できないのだが、彼らの主張が通ったのである。現在童話は復刊しているようだが、トラがバターになってしまうのは驚きの発想であった。教訓がありそうで何もないという画期的な内容だった。面白かった!で終わる昔話や童話は案外少ないのかもしれない。