大使とその妻 水村美苗(みずむら みなえ)著
読み終えてしまった。これが著者の最後の小説になるのかもしれないと思うと、読み進むのを抑えに抑え、とうとうだ。水村は寡作なので一気に読み通すのが惜しくなる。次に彼女の新作を読む楽しみは多分ないだろう。本人もこの作品が最後のように呟いている。
1996年〜97年に朝日新聞社で連載された辻邦夫との往復書簡「手紙、栞を添えて」が私と作者との出会いだった。「續明暗」「私小説 from left to right」「本格小説」と新鮮な感動を与えてくれた。
長く国外で暮らした著者だからこそ書けた小説だと思う。私は2年近く謡を習ったのだが、能鑑賞は苦手なまま現在に至っている。日本人なのだから能は理解したいと挑戦してみたが、敢えなく沈没した。理解するまでにいかなかったのであるが、貴子が舞う姿は想像できる。貴子は日本に憧れながら日本には溶け込めなかった。他国で長く暮らした著者だから失われた日本の姿を追い求めて続けているのかもしれない。