ショートケーキ。 坂木 司(さかき つかさ)著
五篇の短編で構成されている。「ほわっ」とした甘く柔らかなものに包まれているような読後感だ。
著者は覆面作家として作品を発表している。私が読んだものは大抵お菓子にまつわるもので、女性的な感性を感じられる。今時、男性か女性かはさほど重要ではないのだが。
小説を読んでいてコージーコーナーの宣伝か、と思うような描写が多い。私の地域では「シャトレーゼ」が当確か。
「ままならない」はママ一年生の子育て奮闘記。あつこ達新米ママが子どもを育てる大変さに押しつぶされそうになりながらアップアップしている様子が手に取るようにわかる。寛大ではない都会でのワンオペ育児。子どもから一瞬の目も離せない。1時間にも満たない赤ん坊のいない時間を作り出す至難の様子。私もドキドキしながら彼女たちの綱渡り生活を知ることとなる。数年後に娘と共にショートケーキを食べられるようになるが、娘との苺を巡る攻防に「追いイチゴ」発想。ショートケーキに一つしか乗っていない苺を娘からねだられれば与えてしまうのだが、自分用の苺を用意しておけば無念さは無くなるのかも。私は老いた母との攻防にこの手を使おう、と思っている。