よき時を思う 宮本 輝(みやもと てる)著
家族のための豪華絢爛な晩餐会がストーリーの核となる。物語のはじめとおわりは中国の伝統的な建築様式「四合院造り」の家の持ち主、三沢兵馬の話が挿入されている。四合院造りの家とは「方形の中庭を囲んで一棟三室、東西南北四棟を単位とする」建物である。
私の成人以降に親しんだ事柄の幾つかと重なる描写があり、古き思い出を喜ぶように引き込まれてしまった。私は学生時代に書道を嗜み、安価な端渓の硯ではあったが墨を磨るのを楽しみ、王羲之、顔真卿は臨書の手本としていた時があったのだ。
祖母徳子が半紙に「をとこぎみはとく起きたまひて」と書いた。源氏物語 第九帖 葵 第三章 紫の君の物語 新手枕の物語の一節だ。私は源氏物語を読み始めて20年以上の時が過ぎた。いつかはきちんと原文も読まなければ。
新幹線が彦根を通過している時に見える「佐和山城跡」の表示板は学生時代から定年するまで故郷に帰る新幹線の中でよく見ていた。再び見る時が来るのだろうか。
晩餐会は京都の白川。京都は大好きで何度通ったのかわからない。町の中は足が棒になる程歩いたものだ。フレンチのフルコース、シャンパンはドン・ペリニヨン、赤ワインはシャトー・マルゴー等々。日本経済がバブル時代に運良く食の体験を重ねることができた。
私も丈夫な間に親しい人々と晩餐会を開いてみたくなった。頭の中で計画を立てていくだけで十分楽しむことができそうだ。