
成熟スイッチ 林 真理子(はやし まりこ)著
70歳近くなれば自分の過去を回想したくなってしまうのだろう。活動初期はキワモノ扱いされ文壇の中で浮いていた著者が日本文藝家協会理事、日本大学理事長、株式会社GENDA社外取締役にまでなってしまっている。
昨今お金を使わない小さな話が多い中で、懐の厚い話は胸がすく箇所もいくつかあった。しかし、東京はお金があれば多くの楽しみを経験できるが、そうでなければ都会の面白さを知らぬまま暮らしている人も多いだろう。
作者は最後の「流行作家」なのかもしれない。流行作家とは「本が売れて、いい家を建てて、おいしいものを食べて、いい服を着て」という意味だという。現在若い作家世代は目に見えるような欲望が薄いので「流行作家」はいないのだろうと思うし、出版不況が続き以前のような華やかな活動もできなくなっている。
日本の高度成長期と共に過ごしてきた割りの良かった時代に身を置いてきた私には共感する内容も多かったけれど、もう時代に合わない考えになってしまった。著者の語る「成熟」はその時代を知るものからすれば当たり前なのだけれど、若い世代から共感を得たり、目標にされる事はないのかもしれない。