青の純度 篠田節子(しのだ せつこ)著
久しぶりの篠田作品だ。改めて執筆ジャンルを見てみると、ホラー小説、SF、推理小説とある。私は直木賞を取った「女たちのジハード」(1997年発行)の印象が強く、この小説のサスペンス要素のある展開に意外な感想を持ったのだが、本来の作者の小説手法であるようだ。著者が以前インタビューに答えているのを読むと「女たちのジハード」で直木賞を取ったことは不本意であったようだ。
画家ヴァレーズはバブル期に頻繁に目にしていたラッセンを想像させる。当時あれほど売れた画家であったが、美術界からの評価も受けずいつの間にか世間から消えてしまった。なぜ多くの人が彼の絵を欲したのか、本文の「純粋に心地良い絵をそばに置きたいのですよ。芸術と銘打ったわけのわからない絵を欲しがるものばかりではない」の文章に納得する。
ハワイの日系移民の話が本文の中に出てくる。参考文献にもハワイ日系移民についての本が何冊も載せられている。彼らが日本で暮らす日本人よりずっと日本に誇りを持ち続けていたことがわかる。
絵画の販売やアート書籍を世に売り出すための表に出てこない内容なども小説の中に描かれていて興味深い。面白く読み終わったのだが、この作品がSNS上で話題になっていることを知り、一層心に残るものとなった。
記:2025年7月に刊行されその後、ラッセン研究を行ってきた原田裕規から参考文献に彼の文献が不記載であることの指摘があり、論争を重ねている。

