夢見る帝国図書館 中島京子著
「わたし」が喜和子さんと出会ったのは、国際子ども図書館を取材した帰りだった。この部分から一気に物語に惹かれていった。と言うのは私は改修された2002年頃に国際子ども図書館を訪れたからだった。
上野図書館は元々参考図書や特別コレクションの一部を提供する国会図書館の分館として運用されていた。後に国立図書館関西館の設立があり支部上野図書館の役割の見直しが検討され、児童書のナショナルセンターとして再活用されることになった。
旧帝国図書館はルネサンス様式を取り入れた明治期洋風建築の代表作のひとつで、安藤忠雄建築研究所と日建設計により設計、鴻巣組により改修が行われ、2002年に完成、全面開館した。
私が国際子ども図書館を訪れたのは建物探訪のためであった。その時の見学ツアーの参加者は友人と二人だけで存分に建物内部の装飾等に感動しながら歩き回ったことを思い出していた。
小説には上野周辺の様子が描写されているが、上野の美術館に足繁く訪れていた私には当時の懐かしい風景が広がっていった。また、帝国図書館のエピソードが重層的に25話挿入されている。創作も含まれていて全て真実ではないだろうが、帝国図書館が開館された経緯や歴史に名を残した作家たちがここに通ったという挿話も興味深い。
喜和子さんが亡くなった後に彼女の人生が少しづつ現れてくる。本人が亡くなっているのだからどこまで彼女の真実に辿り着けたのかわからないが彼女が語っていた図書館の物語には近づけたのだろうと思う。私も帝国図書館を訪問した夢を見せてもらったようだ。